1 タイトル・担当委員会
レイシャル・キャピタリズム
担当:全青司 憲法委員会
2 開催趣旨
今年度の憲法委員会は、社会の仕組みとして取り込まれている差別に目を向け、結果としての事象にとどまらず、差別を生み出す原因及び構造へのアプローチを行うことを目標に掲げており、本分科会では「レイシャル・キャピタリズム」をテーマに扱います。
「レイシャル・キャピタリズム」とは、1970年代に南アフリカの反アパルトヘイト闘争において生まれた用語であり、1983年にオークランド出身の政治学者セドリック・ロビンソンが「ブラック・マルクス主義―ブラック・ラディカルの伝統の形成」において言及した議論です。
これは、当時の左翼の間で主流であった「資本主義は封建制の革命的否定である」とするマルクス主義の考えに異を唱え、封建制のレイシズム構造にこそ資本主義の基礎があるとするものでした。2000年に新しい版が出版され、2013年から始まったブラック・ライヴズ・マター運動で注目されることとなりました。
2018年にイギリスの社会学者ガルギ・バタチャーリャが「レイシャル・キャピタリズムを再考する──再生産と生存に関する諸問題」を刊行し、ロビンソンの議論を批判的に発展させ、これを本分科会に招聘する稲垣健志氏が翻訳して出版され、日本国内における社会思想及び運動に対して大きなインパクトをもたらしています。
ブラック・ライヴズ・マター運動への連帯が世界的に展開されたことにより、レイシズムを構造上の問題と捉える認識は共有されつつありますが、未だにレイシズムを倫理的な問題、いわば「心の問題」と捉える見方が(特にマスメディアを中心に)根強く残っており、レイシズムの問題における人種概念自体が十分に共有されているとは言い難い現状があります。
本分科会では、ポスト・レイシャルと呼ばれる時代に何故レイシズムが蔓延っているのかを探り、社会構造に組み込まれた差別の仕組みに迫ります。また、レイシャル・キャピタリズムの議論を通して、今起こっている現象を理解することにより、議論が生まれた土壌や問題意識、歴史的背景を学ぶきっかけになればと本分科会を企画しました。
興味ある方のご参加をお待ちしています。
3 研修内容
・委員による報告
・基調講演
・参加者討論
4 講師プロフィール等
稲垣 健志氏 Inagaki Kenji/金沢美術工芸大学准教授
主な業績
『レイシャル・キャピタリズムを再考する―再生産と生存に関する諸問題』(訳、人文書院2023年)
『ゆさぶるカルチュラル・スタディーズ』(北樹出版2024年)
『内灘闘争のカルチュラル・スタディーズ―アメリカ軍基地をめぐる風と砂の記憶』(青弓社2025年)